生うた。

こんなこと(嵐ヲタ)になるよりずっと以前、一家で愛読していた漫画に「はじめちゃんが一番!」という作品がある。

作者は渡辺多恵子さん。連載されていたのは89年~95年だからずいぶん前だ。

長い不妊の末、自然妊娠で生まれたはじめちゃん(長女)はアイドルユニット"WE"(の片方)の大ファン。

不妊治療により生まれた、2歳下の五つ子の弟(あつき・かずや・さとし・たくみ・なおと)が、五つ子ゆえにCMに出演していたことがきっかけで"WE"と同じ事務所から5人組アイドルグループ"A.A.O"としてデビューする。

五つ子(うち2人は一卵性)のシンクロ性、かわいらしいルックス、ローラースケートを履いて歌うアイドル…として描かれる”A.A.O”は、当時絶大な人気を誇っていた光GENJIへのオマージュと推測される。

(それにしても嵐さん結成より前なのに若干名前が被っているのが興味深いな)

時にシリアスなエピソードもあるが、おおむねカラッと愉快でコミカルな作品である。

その中で、下積みもなにもなくデビューした故に歌唱力が伴わず、口パクでTV出演する"A.A.O"への批判に業を煮やしたはじめちゃんが五つ子に「あんなこと言われて悔しいと思わないの?」と激高し発破をかけるが五つ子に受け流されて苛立つ、というエピソードがあった。

(対して人気実力とも備えた"WE"は基本生うた設定だったと記憶している。KinKi兄さんみたいな感じかな~)

その後、五つ子がしっぽ骨(尾てい骨)のあたりを痛がるのだが、はじめちゃんは原因がわからない。

しばらく経ってから、寝そべった状態から身体を起こして(腹筋運動のように)尾てい骨が床に当たる感触に、五つ子が「しっぽ骨が痛い」と言っていたのはもしかして腹筋やってたからなのか、と初めて気づく。五つ子は自分たちに実力がないことをちゃんと自覚していて、踊りながら歌えるための身体を作ろうとしていた…という流れだった(と思う。なにしろ手元に本がない、記憶だけで書いている)

 

先日やっと発売されたTHE DEGITALIANのBRを観て、あれ?これ生うたじゃない?と思ったのだが、Twitterで同じことを仰っている方がいて、どうやら私の聞き間違いではなさそうだと意を強くした。

そして思い出すのが「はじめちゃんが一番!」のしっぽ骨話なのである。

 

 彼らもご他聞に漏れず口パクと揶揄されることが少なくない。

もちろん、歌い手としては、最初から実力がありどんな時でも完璧に歌うのがベターかもしれないが、彼らは"アイドル"であり、時に激しく踊りながら走りながら歌うわけで、その中でまったく音を外さずに息も切らさずに歌えというのはなかなか無理な話であろう。

特に生放送の歌番組では、過去になかなかの事故(失礼)もあったゆえ、慎重にならざるを得ないのかもしれない。

コンサートでも、全曲生うたというのは(公演時間の長さを考えても)厳しいだろう。

それでも、今回のBRのように、彼らの肉声が響いているのを感じられる機会が増えるのはうれしい。

そのためだけでなく、年齢を重ねつつある彼らはきっとフィジカルのレベルを保つために努力しているのだろう。努力してもしなくてもしなやかな適応力でこなしてしまうNくんは別格として。いや口ではあんなこと言ってるけど本当は努力してるのかな…?

コンサートは、あの異次元空間と、日常とは違う速度で流れる時間を彼らと共有する、というところが私にとってのキモなので、生うたかどうかはそれほど重視しないが、彼らの絶えない進化が垣間見えて、なにやら嬉しくなってしまった。

 

ところで、冒頭で紹介した「はじめちゃんが一番!」。

貧乏で狭いアパートに二段ベッド、人口密度の高い部屋に暮らす一家。節約命のはじめちゃんは極力エアコンを使わずに過ごそうと家族に厳命するのだが(タイマーオフにして寝る)熱帯夜に朦朧としながら起き出してエアコン再起動していたのが他ならぬはじめちゃん自身だった、というエピソードも、今年のように暑い夏にはよく思い出す。

15巻とそこそこ長いが、アイドル好きならきっと楽しめると思うので、機会があればぜひ読んでみていただきたい。